元気そうな親子が障害者用の駐車場に車を止めているのを見たら、皆さんはどう思われるだろうか?言わずもがな、車いすマークがついたスペースは、障害者のために設けられている。しかし、外見ではわからない障害がある人たちは、時に肩身の狭い思いをしているという。 障害者用の駐車場は車いす使用者だけ?“歩行困難”な人が対象 千葉県に住む松田さん(仮名)と息子のもっくんは、一見すると“普通”の親子だが、ときどき障害者用の駐車場を利用している。というのも、もっくんは発達障害があり、“衝動性が強い”ため、周りを確認せず行動してしまうところがある。そんなもっくんにとって駐車場は危険な場所だ。そのため、できるだけ入口に近い障害者用の駐車場を利用することが、安全のために必要なのだった。 しかし、障害者用の駐車場を使っていた際、注意されることがあるという。 発達障害の息子をもつ松田さん 「『なんでそこ、止めるんや!』っておじさんに怒られて。『この子が発達障害なので、少しお借りしています』って言っても、『一応歩けるやろ』って感じで。元気な男の子にしか見えないからって…」 実は、障害者用の駐車場をめぐっては、誤解が多い。「車椅子使用者用駐車施設の利用対象者について、どのような方が利用対象者とされているイメージがありますか」というアンケート調査(※1)では、対象者のイメージは「車いす使用者」が約93%、「車いす使用者を介助のために乗せている方」が約79%だった。それに対し、「車いす以外の障害者」は約54%、高齢者や妊婦は約30%と、利用対象者は「車いす使用者」というイメージが強いことがわかる。 確かに、障害者用の駐車場には車いすマークがついている。しかし、その対象は車いす利用者に限ったものではない。千葉県で地域福祉の推進に関わる羽生田さんは、利用できる対象は実は幅広いという。 千葉県健康福祉部健康福祉指導課 羽生田久美子 副課長 「法令上も車いす使用者だけでなく、『身体の機能上の制限を受ける高齢者障害者等であ れば、その区画を利用することができる』ということです」 つまり、車いす使用者や肢体不自由者だけでなく、高齢者や病気の方、妊産婦、知的障害者の方など、“歩行が困難”な人が対象となるそうだ。実際に、千葉県では障害者“等”用駐車場と表記している。 取材した発達障害のもっくんは、周囲の危険を察知することが難しいため、施設の出入口近くで、お母さんと手を繋いで歩くことができる広さがある障害者用の駐車場に駐車することは、間違いではないということだった。 “歩行が困難”だということを利用証で可視化 「誤解を生まないための道具の一つになるかな」 一方で、『なんでそこ、止めるんや』と怒ったおじさんの気持ちもわからないわけではない。というのも、アンケート調査(※1)によると、障害者用の駐車場を利用したことのある人のうち、「急いでいたから」「一般利用者用が空いていなかったから」などという理由で、利用の対象ではない人が不適切に利用していることが明らかになっているのだ。 もっくんのように、見た目に障害があることがわからない場合、不適切だと誤解されてしまうのは、実際に不正利用している人がいるという背景もあるようだ。また、その事実によって、必要な人が障害者用の駐車場を利用することを躊躇することも起きていることが垣間見えてくる。 例え見た目ではわかりづらくても、必要な人が、誤解されずに障害者用の駐車場を利用できるようにするにはどうしたらいいのだろうか。その対策の一つとして、千葉県が始めたのが「ちば障害者等用駐車区画利用証制度」だ。駐車場を利用する際に、利用証を車に掲げることで高齢者や発達障害など、“歩行が困難”な人の適正利用を図り、“困難である”ことを可視化する取り組みだ。 羽生田 副課長 「人をパッと見た時に、なかなかその人の困りごとってわからないですよね。本当に具合が悪くて、病気などで歩くのが困難だとしても『困ってます』と言って歩くわけにもいかない。『見た目は何もなさそうだけど、何か困りごとを抱えているんだな』と、誤解を生まないための道具の一つになるかなと思います」 同様の取り組みは全国的に広がっている。「パーキング・パーミット制度」などの名で、41府県2市が導入している(令和5年3月時点)。千葉県は2年前に導入し、当初見込んでいた利用証の枚数よりも申請が出ているという。これまで誤解されることを恐れ、優先区画を使用することに抵抗があったけれども、この制度のおかげで、障害者用の駐車場を使いやすくなったという意見が集まっているという。 しかし、課題も残る。それは、ニーズに比べて供給が圧倒的に足りていないという問題だ。実際に、必要とする人が駐車するとき、障害者用の駐車場が空いておらず「申請して利用証を取ったのに、使えない」という声を寄せられるという。
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