「あおり運転」で幅寄せされバイクから火花…被害者は防護柵に激突し脳の一部断裂で『即死』 男が法廷で語った”犯行心理” 「ひったくり犯を追いかけるのと同じ感覚」あす判決へ

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2022年3月に大阪府内の幹線道路で、あおり運転の末にバイクの男性を死亡させた罪に問われている男。事件から1年半を経て始まった裁判員裁判では、謝罪の言葉を述べる一方、“被害者の気配をとらえ、急ハンドルを切った”“ひったくり犯や強盗犯の追跡と同じ感覚だった”という旨の証言を展開。あおり運転していた瞬間の心理状況を、法廷で淡々と語った。

遺族の供述調書読み上げで被告の目に『涙』「ぶつける意図などはなかった」

事件は2022年3月の夜に起きた。大阪府堺市の幹線道路「泉北1号線」で、バイクに乗っていた北島明日翔さん(当時28)が、乗用車を運転していた川島陸被告(28)からあおり運転を受けた。

最終的にバイクは、目の前に割り込んできた被告の車に衝突。はずみで北島さんは、バイクもろとも道路際の柵に衝突し即死した。

検察は川島被告を危険運転致死罪で起訴。9月13日に大阪地裁堺支部で開かれた初公判で被告は、「事実としては間違いありません」と起訴内容を認めたものの、「ぶつける意図などはなかった」と主張した。

罪状認否の際、「1分だけお時間よろしいでしょうか」と発言機会を求め、裁判長から止められる一幕もあった。被告人質問で弁護人から「初公判で話そうとしたことは?」と問われると、「被害者のご家族・親族・ご友人に申し訳なく思っています。申し訳ございませんでした」と謝罪した。

証拠調べで遺族の供述調書が読み上げられた際も、被告は涙を拭っていた。傍聴席から見る限り、犯行を後悔し反省している印象は受けた。

幅寄せでバイクから火花…男性は脳の最下部を断裂し即死 急ハンドル切ったのは「感覚的」

北島さんと川島被告に面識はなかった。ではなぜあおり運転をするに至ったのだろうか。

事の発端は、被告が北島さんを追い越す際に、“急に割り込む”ような形になったことだ。被告と北島さんはいずれも同じ車線を走っていたが、被告は隣の車線に移って追い越した後、ウインカーも出さずにすぐさま元の車線に戻った。

検察官 「追い抜きたいのであれば、その車線を走っておけば良かったのでは?」川島被告「元の車線の方がすいていたので…」

急に進路をふさがれ不快感を抱いたのか、北島さんは被告を追い越し返す際に、車のドアを1回蹴ったという。これで被告の感情に火が点いてしまった。

川島被告「まっすぐ走ってるのに、なんで蹴られんの?とは思った。ひったくり犯や強盗犯を追いかけるのと同じような感覚で追いかけた」

被告はあおり運転を開始。加速・減速を繰り返し、走行速度は最大で時速135km(推定)に及んだ。複数回の幅寄せもあり、北島さんのバイクが防護柵に接触し、火花が散った。

そして北島さんが右方向に移った瞬間に、まるで呼応するかのように被告も右に急ハンドルを切った。

弁護人 「北島さんが右にハンドルを切ったのは見ていない?」

川島被告「見てないです」

弁護人 「バイクが右に行こうとしているのは?」

川島被告「感覚的には… 五感の問題」

検察官 「何を基準に被害車両が右に行ったのだと思った?」

川島被告「五感の中だといろいろあるじゃないですか。気配とか」

検察官 「被害者が衝突・転倒する危険性は考えなかったのか?」

川島被告「どうすれば(バイクは)止まるんやろうとばかり考えていて、北島さんのことは考えていなかった。北島さんは意識の端にいたみたいな…」

検察官 「改めて確認するが、右ハンドルを切った理由は?」

川島被告「感覚的なものでしかない。ボーっとしているけど、端のほうで何かが動いているみたいな感覚」

バイクは被告の車に衝突。そのはずみで北島さんは、バイクもろとも防護柵のワイヤー部と支柱にぶつかり、延髄(脳の最下部で脊髄につながる部分)が断裂するなどして即死した。

茂みで見つかったSDカード「抜いた記憶も捨てた記憶もない」

川島被告は警察と消防に通報したが「おかま掘られた(衝突された)」と説明。さらに、警察官に対し“自らの車のドライブレコーダーにはSDカードが入っていなかった”と、虚偽の説明をした。実際にはSDカードは、現場近くの茂みから見つかっている。

しかし被告は、自らがSDカードを捨てたとは認めなかった。

弁護人 「SDカードはあなたが捨てたんですか?」

川島被告「抜いた記憶もないですし、捨てた記憶もない。どうしたものか…と思っているが、他の可能性も、なきにしもあらずではと思っている」

裁判員 「他の可能性とは?」

川島被告「記憶がない以上、僕以外の人が抜いた可能性もあるのではないかという考えです。僕が抜いた可能性もあるし」

裁判員 「ドライブレコーダーの線が抜かれていたが?」

川島被告「それは僕が抜きました」

裁判員 「それはなぜ?」

川島被告「自分がテンパっていた(動転していた)ので、それが(映像に)残るのがいやで…おかしい理由かもしれないですけど」

検察官 「ドライブレコーダー映像はないという嘘の説明をしていた。自分の運転行為に問題があると思っていたのでは?」

川島被告「投げやりになって適当に答えたのは確かです。“僕のこととかは、あとの話ではないか、亡くなった北島さんへの対応が先では”と思っていた」

検察官 「SDカードが茂みで見つかったが、あなた以外に捨てる人がいますか?」川島被告「僕に訊かれても…」

検察官 「捨てたのだとすれば、それが北島さんを最優先に考えた行動ですか?」川島被告「捨てたかどうかもわからないのに、そんな質問をされても…」

遺族「夢を、希望を、未来を返して」 被告は後悔「あおり運転とは何かを知るべきだった」

9月20日の公判では、北島さんの遺族の意見陳述書を検察官が代読した。

「息子を亡くして1年6か月が経ちました。まさか大切な息子の命を28歳で奪われるとは思っていませんでした。どうか大切な我が子を無傷で返してください。夢を、希望を、未来を返してください。あおり運転や危険な運転行為が社会から根絶されることを願います」

検察側は「被告がSDカードを捨てたと合理的に推認できる。典型的なあおり運転で、犯罪抑止のため厳罰が必要」などとして、懲役12年を求刑した。

弁護側は「被告のマナーの悪い割り込みに、被害者が立腹しドアを蹴ったのではないかと考える。追いかけ方は相当ではなかったが、大切な車を傷つけられたかもしれない、話し合わなければならないと考えた被告の心情は理解できる」などとして、適切な量刑は懲役6年だと主張した。

川島被告は最終陳述で次のように述べた。

「危険運転とは何か、あおり運転とは何か、知るべきだったし、知らないままここまで来ました。追いかけることがダメだったと思うし、止めようとすること自体だめだったと思います。僕の未熟さ、至らなさでしかありません。大事な息子さんを家に帰すことができず、本当に申し訳ございませんでした。罪を償って、二度とこんなことを起こさぬよう精一杯生きていきます」

判決は9月22日、大阪地裁堺支部で言い渡される。

(MBS司法担当 松本陸)

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