【日本】スマホで“チップ文化”進む… 飲食店で広がる新しい接客評価のかたち

飲食店でスマートフォンを通じてスタッフや店舗に直接チップを送れるシステムが広がり、従業員のモチベーション向上や人手不足対策として注目されています。

ざっくりPOINT
接客が評価される「推しエール」で最大7万円のチップ実績
飲食代の25%まで設定できる「チップ」制度も導入拡大
導入店舗は全国約3000店、13%がチップ機能を活用中

 飲食店でスマートフォンで客が従業員や店にチップを送れる仕組みを導入する動きがある。接客が可視化されるため、従業員のモチベーション向上につながっているという。

【写真】金額も選べる チップを送る際の画面

 飲食店向けに、多言語での接客応対やキャッシュレス決済などのサービスを手掛ける「ダイニー」(本社・東京)による機能。全国で約3000店舗が導入するモバイルオーダーのシステム内で自由に使える。

 モバイルオーダーは店舗に設置したQRコードを客が自分のスマホで読み込んで注文すると、自動的に店舗のクラウド上にデータが蓄積される。このため、店側は顧客データを蓄積、分析できるメリットがある。

 チップのシステムは二つ。一つ目は2020年から提供している「推しエール」。客が接客やサービスがいいスタッフをプロフィル一覧から選んで、投げ銭感覚で送る。もう一つは今年6月から始まり、客が店に送る金額を飲食代の25%まで設定できる「チップ」だ。これらを利用する店舗はモバイルオーダー導入店の13%ほどで、上昇傾向にあるという。

 愛知、岐阜、三重の3県では計約250店舗がチップの仕組みを導入している。

 「推しエール」を使っている名古屋市中村区にある居酒屋の店長(21)は「頑張りが見える化できるので、アルバイトのモチベーション向上につながっている」とする。「チップ」を取り入れている中区の焼き肉屋の利用客は「満足のいくサービスであれば、送ってもいいかなと思う」と話した。

 厚生労働省によると、25年5月の有効求人倍率は全職業平均の1・05に対し、飲食店は調理系が2・40、接客系が2・63だった。飲食店の運営は大半がアルバイトで、採用の難しさがうかがえる。

 「推しエール」では、1カ月で約7万円を送られたアルバイトもいるという。名古屋市の飲食店舗で投げ銭を受け取ったという女性は「自分の接客がお客さまの期待以上だったことが分かり、やる気がでた」と話しており、チップの仕組みは飲食業界の人手不足を解消する手立ての一つとして注目されている。【黒田麻友】

https://news.yahoo.co.jp/articles/6da80bd90fecb9ac9d7467ea41bc841bddb113e4

日本に根づくか「チップ文化」 海外との違いと今後の展望
日本ではこれまで、欧米と異なりチップの文化が一般的ではありませんでした。

しかし近年、キャッシュレス決済の普及や接客の可視化を通じて、新たな形のチップ制度が徐々に広がりつつあります。

アメリカなどでは、チップが賃金の一部として制度的に組み込まれていますが、日本では基本給に含まれているため、チップ導入には慎重な姿勢も根強くあります。

ただ、モバイルオーダーを活用したデジタルチップは、押しつけがましくなく客側の自主性に委ねられている点で、日本人の気質にも合う仕組みといえるでしょう。

今後は、法的な整備や税務上の扱いなどを明確にしつつ、チップ文化が定着するかが注目されます。

評価と報酬が連動する時代 アルバイトの意識改革も
デジタルチップの導入によって、接客の質が目に見えるかたちで評価されるようになり、従業員の意識にも大きな変化が生まれています。

とくに若年層のアルバイトにとって、成果が報酬に直結することは大きなモチベーションとなります。

従来のように時給一律で評価されにくかった接客業において、客の満足度に応じた報酬が得られる仕組みは、労働の質の向上にもつながります。

加えて、飲食業界は慢性的な人手不足に直面しており、採用・定着の面でも効果を期待できます。

単なるサービスの向上だけでなく、働き方や報酬の見直しという観点でも、デジタルチップの取り組みは今後の雇用の鍵を握る可能性があります。