大西洋に沈んだ豪華客船タイタニックを見学するために水深4000m近くまで潜っていた潜水艇タイタンが行方不明になった事件について、アメリカの沿岸警備隊は潜水艦の破片を発見したと発表しました。発見された破片はタイタンの耐圧室周辺のもので、タイタンが爆縮によって圧壊(あっかい)したとみられています。潜水艦を一瞬で押しつぶしてしまう爆縮とは何なのかについて、乗り物やテクノロジーに詳しいニュースサイト・SlashGearが説明しています。 What Really Happens When A Sub Implodes https://www.slashgear.com/1321221/what-happens-when-sub-implodes/
私たちが普段暮らしている場所には空気があり、場所によって差はあるものの、基本的に1気圧(約1013ヘクトパスカル)という大気圧がかかっています。これは大気中の空気の重さが体に押し付けられているというわけです。 爆縮とは、全周囲からの強い圧力が働き、破壊される現象を意味します。「爆発」が内側から外側に圧力が働くのに対して、爆縮は外側から内側に圧力が働きます。そして、深海では空気よりも重い水の重さが押し付けられるため、地上では考えられないほど膨大な圧力がかかることになります。 例えば、今回の潜水艇タイタンの破片が見つかった水深およそ3800mでの水圧を計算します。水圧は液体の密度(kg/m3)×重力加速度(m/s2)×水の深さ(m)で求められるので、水深3800mの水圧は1020×9.8×3800=約38万ヘクトパスカルだとわかります。これは、地上の約375倍もの圧力がかかることを意味します。
潜水艦の内部には空気が詰まっているので、基本的には1気圧と考えられます。潜水艦は材質や構造によってものすごい水圧の中でもつぶれないように設計されていますが、限界深度というものが設定されており、それを超えると潜水艦の構造が周りの圧力に耐えきれず、爆縮を起こしてしまいます。 以下のムービーの3分3秒頃から再生すると、電球やガラス瓶が水圧で圧壊する様子をスローモーション映像で見ることができます。密閉された分厚いガラスの瓶が、一定圧力を超えると一瞬にして爆縮し、壊れてしまう様子がよくわかります。 Deep Sea Implosions in Slow Motion | How Deep Can a Light Bulb Go? – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=WD7CfnQC5HQhttps://www.youtube.com/watch?v=WD7CfnQC5HQ
今回のタイタニック見学に使われていたタイタンは水深1300mまでしか耐えられないとされていました。水圧は水深に比例するので、タイタンは性能限界のおよそ3倍近い水圧を受けていたことになります。 タイタニック号の付近で行方不明になった観光用潜水艦は開発初期の段階から安全性が疑問視されていた – GIGAZINE
爆縮は潜水艦が周囲の圧力に耐えられなくなった時に発生します。性能限界を超えてより深く潜水すると、圧力によって船体が破損し、その破損がもとで爆縮を起こし、圧壊してしまいます。例えば、1963年にアメリカ軍の原子力潜水艦スレッシャーは、機関部分のトラブルにより推進力を失い、水深600m以上の深さで圧壊しています。 大きな水圧による爆縮圧壊は一瞬の出来事で、巨大な潜水艦ですら1秒以内にひしゃげてしまうといわれています。もちろん人間の体は突然1気圧から375気圧に相当する圧力下に放り出されても耐えられるような構造をしていないため、中枢神経が異常を認識するより前に死んでしまうだろうとSlashGearは述べています。