外国人の増加数の見立ての甘さ
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2020年の国勢調査を基にした新たな将来推計人口(=2023年推計)を公表したが、その内容が波紋を広げている。
ここ数年の出生数の減少スピードの加速を無視するかのように2017年の前回推計よりも人口減少ペースが緩やかになると結論づけたからだ。
前編(日本人「大減少」の未来がやってくる…話題の人口推計「2070年に8700万人」より現実は深刻である)では、楽観的に過ぎる出生数の見通しを指摘したが、人口減少ペースが緩やかになるとした決定的な要因は外国人の増加数の見立ての甘さである。
前回推計では年間6万9000人ペースで増えるとしていたが、2023年推計では16万4000人とした。一挙に2.4倍に設定したのである。
しかも、根拠としたのは入国超過数のみである。コロナ禍前の2016~2019年が年間16万3791人だったからというのだ。
社人研は毎年16万4000もの人がどこの国から来るか想定しているわけではなく、来日した人が日本に何年滞在するのかといった詳細も説明していない。
どれぐらいの人数がいつの時点で帰国するのか、あるいは永住するのかといった数字が少し異なるだけで超長期にわたる将来推計結果は大きく変わる。
こうした点をあいまいにしたまま、足元の入国超過数だけで機械的に将来人口を推計するというのはあまりに乱暴だ。
これに対しては、厚生労働省の幹部は「将来人口推計の手法の限界」と認めている。
日本はもはや「魅力の乏しい国」
そもそも外国人というのは水物である。当該国の事情が大きく影響するため、出生数や平均寿命の延びの見通しに比べて不確定要素が多い。
とりわけ、近年の外国人労働者をめぐる環境の変化は著しい。コンピューターの普及もあって開発途上国にも最新鋭の工場が建ち並ぶようになった。経済発展は目覚ましく、多くの国で雇用が創出されている。
一方で、少子高齢化が進み始めた国が少なくなく、いまや世界規模で人手不足が顕著となっている。外国人労働者の争奪戦は激しさを増してきている中、賃金水準が低く、言葉が通じない日本は「魅力の乏しい国」になりつつある。
しかも、人口減少に伴う国内マーケットの縮小で日本経済の衰退が懸念される。いまでこそ日本は経済大国の地位を保っているが、人口規模が縮小することで経済成長の勢いを失ったならば、多くの外国人から見限られよう。
当然ながら、外国人労働者は自身にとってチャンスが大きい国に流れる。「門戸を開けば多くの外国人が喜んでやってくる」と考えるのは日本人の驕りであろう。
外国人人口は現行水準よりは増えるだろうが、期待するほどの増加幅となる保証はない。永続的に16万4000人もが来日し続けるというのは、「見通し」というより「願望」に近い。
外国人が総人口の1割を占める?
2023年推計が「年間16万4000人」の外国人が来日すると仮定したのは、社人研の意図の有無は別として実質的に日本が大規模に移民を受け入れた場合のシミュレーションしたようなものである。
毎年16万4000人ペースで増えていった場合、2070年の外国人人口は939万人となる。総人口に占める割合は10.8%となり、半世紀後には立派な「移民国家」が完成する。そうした結論が読める2023年推計は、とても従来のような「純粋な将来推計」とは思えない。
しかも、移民の受け入れに関しては世論が割れている。与党内にも反対意見は根強い。政治的ハードルが極めて高いにもかかわらず、このような前提を置いた推計をすれば憶測を呼ぶことは想像に難くなかったことだろう。それでも公表した背後には意図と狙いが透けて見える。
人口減少対策として移民の受け入れを積極的に推進しようという動きは政府・与党内でくすぶっているのだ。
実は、安倍晋三首相が2014年に「2060年に1億人程度の人口を維持する」という展望を示した際に、政府が移民国家の実像をシミュレーションしたこともある。移民を毎年20万人受け入れることで1億人程度の人口をどれぐらいの間、維持し得るのかを計算したのだ。
この際は自民党内の移民反対論が強く、安倍晋三首相が火消しに追われた。だが、政府はその後も外国人労働者の受け入れ拡大政策を推進してきた。また、外国人が増えることを織り込んだ「2060年に1億人程度」との展望は、2019年に策定した第2期「長期ビジョン」にも引き継がれている。
2023年推計の公表とタイミングを同じくして、政府が外国人の永住に道を開く「特定技能2号」の拡大案を与党に示したのは偶然なのだろうか。
「特定技能2号」の拡大に関しては自民党内から「事実上の移民受け入れにつながる」といった批判の声が上がり、松野博一官房長官が記者会見で「いわゆる移民政策をとる考えはない」と従来通りの表現で釈明したが鵜呑みにできない。
いま、本当に求められていること
ちなみに、日本人のみの将来推計で1億人を下回るのは2048年だ。2060年は8767万人にまで減る。
さすがに外国人がゼロということはありえないが、外国人を大規模に受け入れ続けないかぎり、「2060年に1億人程度」という“目標”はとても達成し得ない。
それは、これまでの「当面人口が大きく減ることはない」という政府の説明の否定であり、人口が減っても「過去の成功体験」を維持したい勢力にとっては都合の悪い未来図ということだろう。
「特定技能2号」の拡大に限らず、政府の政策は総じて「外国人受け入れありき」に傾きつつある。ただ、仮に16万4000人の外国人が来日し続けたとしても、日本人の勤労世代の減少数のほうが大きく、一部を穴埋めする程度の効果しかない。外国人政策がどうであろうと、人口減少に耐えうる社会への作り替えを怠るわけにはいかないということである。
「外国人の受け入れを拡大すれば、人手不足は解消する」などと安易に考える政治家や企業経営者は少なくないが、万が一にも2023年推計を都合よく解釈し、規模の拡大路線に引き続き邁進するようなことになれば、国を大きく誤る。
いま求められているのは、目先の対応策ではなく、人口が減ってもなお経済が発展し得るようにするための社会の大変革である。