一般の女子高生と変わらない笑顔を浮かべ歩く愛菜ちゃん。しかし、たたずまいは凛としており、スターのオーラをまとっていた
子役から大人の女優へ脱皮しつつある芦田愛菜が、3月22日、慶應義塾女子高校(以下、慶女)を優秀な成績で卒業した。愛菜は2017年に慶應義塾中等部に入学し、2020年に慶女に進学していた。
4月1日、慶應義塾大学の学部入学式がおこなわれた。愛菜は学業優先の生活を貫き、みごと同大の文系最高峰の法学部政治学科への進学を果たした。政治学科とはどんな学びの場なのか?
中等部に進むと決まった当初、「医学部進学」が念頭にあるとの風評が立った。「噂を真に受けていた口でした」と苦笑するのは、同学科出身で元札幌テレビ社員、現在はフリーアナウンサーの小笠原舞子さん。噂に反して、愛菜が自身の後輩になったことを素直に喜んでいる様子だ。
「政治学科には出欠が厳しいゼミもありますが、私の所属したゼミはそれほどでもなく、芸能活動との両立は難しくないかもしれません」
政治学科のOB・OGのなかでも、女子アナは目立った存在だ。具体的には、以下のような元職や現職がいる。
NHK:田中泉、上原光紀、野口葵衣
日本テレビ:柴田倫世、徳島えりか、佐藤梨那
TBS:秋沢淳子、長岡杏子
フジテレビ:松村未央
テレビ朝日:竹内由恵、弘中綾香
テレビ東京:前田海嘉、秋元玲奈、中原みなみ
何より政治学科を女子アナ登竜門にした立役者は、元NHKキャスターで、現在は千葉商科大学国際教養学部長を務める宮崎緑だ。
また、政治学科ではジャーナリズムを学べるため、木村太郎、塩田潮、石川好、橋本五郎、後藤健生といった報道畑の人材やライターも多い。小笠原さんもそれら先達に続く立場だが、頼もしい後輩がニュースキャスターをこなす可能性を示唆する。
「視聴者にわかりやすく、しっかり報道の内容を伝えるには表現力が必要です。愛菜ちゃんがこれまでにお芝居で培ったスキルは、きっと報道現場でも活きるでしょう。愛菜ちゃんは読書家で知られていますから、その知的な面もキャスターにピッタリだと思います」
同学科出身で、ここで長らく教鞭を執った池井優名誉教授も、「『愛菜ちゃんがわれわれの後輩になる!』と、教え子たちから興奮ぎみのメールが届きましたよ」と目を細める。
池井教授は日本外交史や極東国際関係史を専門とするが、1998年、政治学科が創設100周年を迎えた際、大学出版会から刊行された記念本『慶應義塾大学法学部政治学科百年小史-師友人物記』の著者でもあり、まさに同学科の生き字引。同書では、元巨人の高橋由伸、俳優の加山雄三らが触れられている。
ほかにも、政治学科の出身者はキラ星のごとく。歌舞伎役者では市川右團次、タレントではミッツ・マングローブ、トラウデン直美、EXILEメンバーの岩田剛典らがいる。
そして、学科名のとおり、松野頼三元農相、橋本龍太郎元首相、田中直紀元防相、甘利明前自民幹事長、海江田万里衆議院副議長ら著名政治家も多く輩出。だからこそ、愛菜宰相待望論なども囁かれるわけだ。ちなみに、岸田文雄首相の長男・翔太郎も、一浪後、政治学科に進んでいる。
だが、慶応といえば経済学部が名高い。池井教授は、ややほろ苦い面持ちで、同学科が学生募集に苦慮した過去を回想した。
「かつては内部進学者と体育会系で占められ、一般入試での人気もなく、偏差値も低かったんです。そこで1970年代末、私をはじめ学科の教授陣総出で大改革に打ってでた。帰国子女や高校推薦枠を拡充し、入試制度も改めるなど、あれこれ奔走した結果、人気も急速に高まったんです」
池井教授らは、優れた業績をあげた教員たちを各大学からスカウト。慶応出身かどうかにはこだわらなかったという。そのため、現在の教授陣は、池井教授も太鼓判を押すほどの人材が揃っていると笑う。
そして、愛菜には「そうとう期待をかけている」と語る。
「今の時代、体力・気力・知力ともに女子学生のほうが勝ってますよ。愛菜ちゃんも、政治学科を選んだということは、国内や海外の政治的課題に目を開かれているのでしょう。ぜひ自分が関心を持ったテーマを探求できるゼミを選び、自らの足で資料を探し、しっかりした卒論を残してもらいたいですね」
優秀だと評判の愛菜は、女優業と二足のわらじを履きつつ、卒業生総代になれるかもしれない。さらに、将来的には政界進出も!? 「あり得ない話ではありませんよ」と池井教授もほくそ笑む。いずれにせよ、来年以降、愛菜効果で政治学科の倍率が跳ね上がるのは必定だろう。
取材・文/鈴木隆祐