「ヤクザ辞めてラーメン屋に専念したい」口の中で発砲…射殺された“ラーメン組長”が悩んでいたこと

0 Shares

「週刊文春」編集部 によるストーリー • 4 時間前

「目が合えば必ず挨拶してくれたし接客も丁寧でした。あんな穏やかな人が、まさか……」(常連客の1人)

神戸市長田区のラーメン屋から銃声が鳴り響いたのは4月22日の午前11時頃。殺害された店長は、暴力団組長という“裏の顔”を持っていた――。

◆ ◆ ◆

幼い妹と弟の面倒を1人で…店長の生い立ち

ラーメン屋「龍の髭」は、2016年5月に開店、安くて美味いと評判だった。

「牛のテールをじっくり煮込んだスープが売りで、最近は店長と65歳の女性店員の2人でお店を切り盛りしていました」(同前)

119番通報をしたのは、その女性店員だ。買い物から帰ってきて厨房を覗くと、店長が頭や口から血を流して倒れていたのである。

兵庫県警担当記者が語る。

「画像診断で頭部から弾丸が見つかった。県警は、何者かが店長の口の中で拳銃を発砲した可能性があるとみて捜査を進めています」

近隣住民をさらに驚愕させたのは、店長が現役の暴力団組長だったことだ。その名は余嶋学(よじままなぶ・57)。六代目山口組の司忍(本名・篠田建市)組長の出身母体である弘道会の直系組織「湊興業」の組長を務めていた。暴力団関係者が語る。

「余嶋は神戸の生まれで、10代の頃に両親を亡くし幼い妹と弟の面倒を1人で見てたんや。若い頃から腕っぷしが強くてな。暴れまわっていたところを司組長に見初められ、こっちの世界に足を踏み入れたんや」

前科前歴も“多彩”だ。

「11年に恐喝や公正証書原本不実記載などで逮捕されたのを皮切りに、14年には恐喝と詐欺、16年は道路交通法違反と暴力行為等処罰法違反と傷害。20年にも組織犯罪処罰法違反で逮捕されています」(前出・県警担当記者)

だが後に不起訴となっているものも多く、16年5月に逮捕された傷害容疑に至っては一審で無罪判決が出ている。そのため同情的に見る向きもあった。

「特に15年夏に山口組が“六代目”と“神戸”に分裂して以降、余嶋の組は神戸で唯一の六代目側の直系組織として肩身の狭い思いをしてきたはず」(同前)

実際、余嶋が神戸市内で暴力団組員であることを誇示することはなかった。

「人を笑わせるのが好きな陽気な奴」

ある居酒屋店主が言う。

「余嶋さんは1人で飲みに来ることが多かったけど、たまに大人数で来て騒いでいても、俺が『うるさいよ』と注意すると、すぐに『すまん。静かにするわ』と謝ってくれるような人」

別の居酒屋の女将も言う。

「ある日私が『お店のコースターがグラスで濡れて困る』と言ったら、わざわざ珪藻土のコースターを5、6枚持ってきてくれたことがあった。優しいのよ」

カラオケではB’zの『RUN』や大黒摩季の『ら・ら・ら』を好んで歌い、酒も滅法強かったという。

「焼酎を7、水を3で割って飲んでいたけど、荒れることなんて1度もなくて、人を笑わせるのが好きな陽気な奴やった」(飲み仲間)

「ヤクザ辞めてラーメン屋に専念したい」

自身のインスタでは、娘や息子、孫の写真を度々アップ。その成長を喜び、幸せを謳歌しているようにも見えた。ところが――。

「余嶋は、ごく近しい組の関係者に『上納金も払えないし、ヤクザ辞めてラーメン屋に専念したい』などと相談していたようですわ。だけど、弘道会からは了承が得られんかった。その後、余嶋は腹を括ったのか、俺に『狙われるかもしれんけど、ビクビクしとってもしゃあないやろ』と開き直るようなことを言っとった」(前出・暴力団関係者)

冒頭のラーメン店の常連客が回想する。

「そういえば、一昨年の7月22日の明け方、ワゴン車があのお店に突然突っ込んで入り口のシャッターが壊れちゃったんです。なぜか店長は現場検証に来た警察を手で制止し、『入るな!』と言って揉めていた。あれも、もしかして……」

敵対勢力の攻撃か、身内の粛清か、はたまた……いずれにせよ、暴力の渦から逃れることは叶わなかった。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年5月4日・11日号)

0 Shares