ヨーロッパで「トヨタ」が失敗し「テスラ」成功した、シンプルな理由…「EV天国」ノルウェーで見た最新事情

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EV化が急務と言われつつも、なかなか普及率が上がらない我が国・ニッポン。そんな話題になると「海外では~」とよく出てくるのがノルウェーの話だ。

確かにノルウェーのBEV(バッテリ式の電動自動車)普及率は凄い。最新2022年の新車販売データで見ると、乗用車ではなんと79.3%がEV。これにPHEV(プラグインハイブリッド自動車)を加えると電動化比率は驚きの88.5%! これが彼の地が「EV天国」と言われるゆえんだ。

だったら、そのEV天国を自分の目で確かめてみようというのが今回の旅のテーマ。はるばる飛行機を乗り継いで、ノルウェーの首都オスロに降り立ったわけでございます。(『ベストカー』2023年8月10日号掲載記事より)

TEXT/鈴木直也(モータージャーナリスト)

EV天国と言われるノルウェーのEVを取り巻く現状

さて、EV天国の視察にEVがなくてはシャレにならない。ガーデモエン(オスロ)空港でぼくを出迎えてくれたのは、シルバー(プレシャスメタル)のbZ4X。とりあえずオスロ市内のホテルに目的地をセットして、モーターウェイE6に向けてbZ4Xのアクセルを踏み込んだ。

走り出してまず気づいたのは、とにかくテスラが多いこと。販売統計によるとテスラの販売台数は2019年あたりから急増し、2022年にはシェア12.2%に達してVWを抜き乗用車部門のナンバー1を奪取。昨年ベルリン工場が稼働しはじめたことで、テスラの勢いは今後もさらに加速することが予想される。

これと対照的なのがトヨタだ。ノルウェーにおけるトヨタのシェアは2016年あたりから激減していて、2022年は8%でテスラ、VW、BMWに次ぐ4位のポジション。しかも、他メーカーは8割以上がBEVなのに対して、トヨタのBEV比率はまだ7%。PHEVを足しても32%で、残りはほぼすべてHEVという内訳となっている。

「EVはおトクだから」ノルウェー人の本音です

オスロ市街地のホテルに到着し、地下公共駐車場に停める。さすがというべきか、すべての駐車スペースに交流22kWの充電器が設置されていて、プラグインしておけば100kWh級のバッテリーでも一晩で満充電にすることが可能。BEVは駐車料金も無料もしくは大幅割引があり、充電料金も政策的に低く抑えられている。

このへんは本当にEV天国。2023年から付加価値税免除が定価5万ユーロ以下に制限され、重量税約2000ユーロが追加されたとはいえ、まだ内燃機関車より30%以上安く買えるうえにこの優遇措置。環境だけじゃなくお財布にも優しいからこそ、BEVがこれだけ売れているというわけなんだね。

翌日は、地元自動車雑誌のエディター、ペーター・ラーウムさんとランチしながら現地事情をうかがったんだけど、ペーターさんは「環境意識も確かにあるけど、みんな本音ではお得だからEV買ってるのよ」という。

また、充電事情に関しても「公共の急速充電器が豊富にあるのはありがたいけど、地元の人はあんまり利用しないなぁ。だって、オスロ市民だって9割が持ち家住まいだから、家で充電したほうが安い」とのこと。

ペーターさんに言わせると「ノルウェーは凄く特殊な国。ウチの国と同じようなEV政策は、お隣のスウェーデンやフィンランドだって無理だと思うよ」というご意見でした。

結論として、ノルウェーが世界最高のEV天国であることは間違いない。でも、それをどこの国でも実現できるかといえば、それはかなり非現実的。カーボンニュートラルに向けた自動車業界の変革は、それぞれのお国柄に応じたマルチパスウェイで進めることが大事。それをあらためて実感した取材ツアーでした。

〈プロフィール〉

鈴木直也(すずき・なおや):1954年生まれ。23歳のとき(1977年)に月刊自家用車への寄稿を皮切りに自動車ジャーナリストとしての生活をスタート。現在は自動車専門誌としてはベストカーを中心に執筆活動を展開する。新型車のロードインプレッションだけでなく、技術解説や歴史解説に関しても造詣が深い。

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