エレベーター大手・フジテック元会長が告白「香港系ファンドに乗っ取られた」 彦根の老舗企業がなぜ狙われたのか

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滋賀県彦根市に本社を置き、1948年に設立されて以降、75年の長きにわたり創業家が経営の実権を握ってきたエレベーター大手フジテック。現在では東証プライム企業として20以上の国と地域で事業を展開し、国内では約7万台のエレベーターを保守管理する。直近の業績は好調で、2024年3月期の連結経常利益は前期比13.3%増の見通しだ。

香港系投資ファンド・オアシスが、特設サイトで発信したフジテックの株主向けメッセージ全文

ところが今、その優良企業が重大な局面を迎えている。創業者の長男で、同社の社長と会長を歴任した内山高一氏が、「香港系ファンドに会社を乗っ取られてすべてを奪われた」と訴えるのだ。一体何があったのか。

「とうとう来たか……」──昨年11月、大量保有報告書を見た内山氏は思わず息をのんだ。

そこには、物言う株主として知られる香港系投資ファンド「オアシス・マネジメント」(以下、オアシス)がフジテックの株を16.52%まで買い増した事実が記されていた。

「警戒はしていたが、2020年までのオアシスはフジテックの株を2~3%しか持たず、特段厳しい要求もしてこなかった。フジテックは完全独立系の会社で創業家の株保有は10%ほど。そのスキをついてオアシスは市場で浮動株を買い増し、いきなり大株主として名乗り出ました」(内山氏、以下同)

会社側の取締役がオアシス側に

徴候はあった。昨年5月、オアシスは内山社長(当時)が保有する法人とフジテックの間に不透明な取引があるとして、会社を私物化しているなどと主張。「内山降ろし」を展開した。6月の株主総会で内山氏は再任されず、直後に取締役や執行役の付かない会長に就任した。

その頃からフジテック株を買い増したオアシスは筆頭株主となった昨年12月、突如牙を剥いた。

「内山高一氏による支配構造」を痛烈に批判し、株主の期待に応えられない責任は内山派の社外取締役にあるとして、6人の社外取締役全員の交代を求めて、臨時株主総会の開催を要求したのだ。

会社は議案に反対したが、今年2月24日に開催された臨時株主総会では、5人の社外取締役の解任議案のうち3人分が可決された。同時にオアシスが推す6人のうち4人が選任され、物言う株主の切り崩しが成功した。

「私や創業家に対するネガティブな情報を機関投資家や一般の株主が信じてしまった。会社の資金は正当な手続きを踏んで捻出され、税務署が問題視せず有価証券報告書にも掲載されてやましい点はないが、オアシスに攻撃された時にもっと強く反論すべきでした」

新取締役会はフジテックから社長を含め5人、オアシスから4人。人数は拮抗するもののフジテックが首の皮1枚残した。

ところが、3月24日の取締役会で想定外の事態が発生した。内山氏が苦渋の表情でつぶやく。

「これまで私の会長就任や会社の提案議案にすべて賛成してきて“会長側”だったはずの社外取締役も臨時総会後にオアシス側の意見に従属するようになった。オアシスが3月7日に公表したペーパーで『ガバナンスが向上しなければ留任した取締役に株主代表訴訟を提起する』と持ちかけたことも要因かもしれません。また、社外取締役の給料が3倍になったのです」

形勢逆転したオアシスは3月28日の取締役会で緊急動議を出し、内山氏を会長職から解くことを一気呵成に決議した。

「長く社長を続けて会社に貢献したのに、緊急動議で不当に解任されて『もう会社に来るな』『秘書も車も使うな』と突き放された。仲間だと思っていた会社側の取締役までが180度転換し、満場一致で解任となったことが残念でなりません。フジテックは完全にオアシスに乗っ取られました」

内部留保が多い割に株価が安い

一敗地に塗れた内山氏は意を決し反攻に転じた。

「オアシスが株を買い集めるのは正当な投資行為ですが、言われなき誹謗中傷は絶対に許せず、彼らが主張する38項目について15億4000万円の損害賠償を求める裁判を起こしました。会長を解任された取締役会決議の無効も訴えていきます」

 内山氏はフジテックが狙われた理由をこう語った。

「好調な業績で内部留保も多い割に株価が安く、お買い得でした。もっと思い切った成長戦略を描いて高配当を実現し、株価を上げておくべきだった。創業家社長として悠長に構えていたのが災いしたかもしれません」

 創業家として憂慮するのは愛するフジテックが切り売りされることだ。

「オアシスはフジテックの経営に興味はありません。特定の企業をターゲットに、内部留保を吐き出させて資産を切り売りし、短期間で売り抜けて高率の利益を出すことが彼らの常套手段。父親から引き継ぎ、私が売り上げを倍に、利益を3倍にした、思い入れのあるフジテックが彼らの言いなりになるのは耐えられません」

 果たして内山氏の言う通り、経営支配権を獲得した末にオアシスはフジテックを短期間で売り抜けるつもりなのか。

 オアシスに聞いたが締め切りまでに回答はなく、フジテック広報室はこう回答した。

「特定の株主が当社の経営支配権を取得したと仮定した場合の当社の資本政策や同株主の投資行動について、当社はお答えできる立場にございません。当社はさらなる企業価値の向上のため、現行の事業戦略及び財務戦略の見直しを進める考えであり、このような企業価値の向上を通じて、株主をはじめとするステークホルダーの皆様の期待に応える所存であります」

 6月21日に迫る株主総会では、内山氏はフジテック株を約10%持つ自身の会社「ウチヤマ・インターナショナル」を通じ、8人の新たな社外取締役の選任を株主提案。オアシスの息がかかる会社側は新社長を含む取締役9人の選任を提案しており、「勝者総取り」の大勝負が見込まれる。

 地方の老舗企業であっても、いつ海外投資家から狙われるか分からない時代を迎えたということだ。

※週刊ポスト2023年6月30日・7月7日号

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