知人女性への強制わいせつ疑惑が報じられた西武の山川穂高。この報道が出た11日のロッテ戦は「5番・一塁」でフル出場したが、翌12日に登録抹消された。球団は「総合的に判断してコンディション的に抹消」と理由を説明した。
西武を取材するスポーツ紙記者は肩を落とす。
「疑惑が本当であれば、ファンを裏切る行為で許されることではない。今後の警察の捜査で逮捕ということになると、解雇になるでしょう。また不起訴、被害者女性との間で示談が成立した場合も西武でプレーするのは厳しいのではないか。山川にも言い分はあるかもしれないが、週刊誌の直撃取材で自己弁護とも捉えられる主張をしている。被害に遭った女性のことを考えると、ベラベラ話すべきではなかったし、大きくイメージダウンしてしまった。他球団の主力選手にも女性スキャンダルはあったが、山川は警察が捜査をしている事件ということで意味合いが全く違う。家族思いでファンにも優しい主砲というイメージを大きく裏切り、西武ファンからも怒りの声が出ている。グラウンド上のプレーで失った信用を回復するという問題ではなくなっている」
昨年、本塁打王と打点王の2冠王を獲得するなど、過去に3度の本塁打を獲得して通算218本塁打をマーク。球を遠くへ飛ばす才能は村上宗隆(ヤクルト)、岡本和真(巨人)と共に球界屈指だ。今年3月には侍ジャパンに選出され、WBCに出場。世界一の歓喜を味わった。昨オフに球団が4年契約を提示したが、山川は固辞して単年契約を選択。今季中にFA権を取得予定だったことから、他球団への移籍が「既定路線」という見方もあった。1シーズンに40本塁打以上計算打てる和製大砲を獲得できれば、大きなプラスアルファになる。FA権を行使した場合は複数球団の争奪戦が予想されたが、今回の女性トラブルが報じられたことで厳しい状況となった。
「西武は主力選手がFA移籍で流出してきた歴史がある。マネーゲームには参戦しないので、山川がFA宣言すれば他球団に移籍する可能性が高かった。その有力候補とされていたのがソフトバンクです。右の長距離砲不在の状況が続き、山川は補強ポイントにピンポイントで合致する。でも、警察沙汰になった今回の事件が報じられたことで、山川獲得はファンの理解を得られないし、球団のイメージも悪くなる。ソフトバンク以外の球団も獲得に動くことは考えづらい」(スポーツ紙デスク)
そもそも、FA権を今季中に取得できるのかという問題がある。警察の捜査が大きくかかわってくるが、今年は事実上の「無期限謹慎」で、1軍の舞台でプレーしない可能性もある。西武で来年以降もプレーする未来予想図が描けない中、不起訴となった場合はトレードという選択肢も考え得る。
思い出されるのは、日本ハムから巨人に無償トレードで移籍した中田翔のケースだ。中田は日本ハム在籍時の21年8月にベンチ裏で後輩のチームメートと会話していた際、腹を立てて暴力行為をしたことが発覚。日本ハムは統一選手契約書第17条(模範行為)違反で、1軍・ファーム全ての試合の出場停止処分を科した。当時の栗山英樹監督は中田が日本ハムでプレーする状況が厳しいことを示唆。NPBでの現役続行が厳しいと思われたが、巨人が獲得を決断した。中田は無償トレードで移籍すると、即1軍で出場。このトレードに賛否両論の声が出た。
巨人はトレードという形で、山川にも救いの手を差し伸べるのか。民放テレビ局関係者は獲得に否定的な見方を示す。
「中田にセカンドチャンスを与えた時とは状況が全く違います。女性への性的暴力が事実なら厳しい処罰を受けるべきだし、不起訴処分となっても見る目は厳しくなる。これは日本だけでなく、世界共通の認識です」
メジャーを代表する右腕だったDeNAのトレバー・バウアーが、ドジャースに移籍した21年に女性に対するDVの禁止規定違反で出場停止処分に。昨年は1試合もマウンドに上がることがなかった。今年1月にドジャースは契約を解除。バウアーは証拠不十分で不起訴処分になったが、メジャー他球団は事態を重く見て獲得に動かなかった。21年6月以来マウンドから遠ざかった右腕は日本で再出発を決断。1年10カ月の月日を経て、今年4月に実戦復帰した。
山川が西武を退団した場合、NPBの他球団でプレーするのも厳しいだろう。現役引退の危機に追い込まれることになるが、国内独立リーグの監督は匿名を条件に、「今回の事件が不起訴処分、女性サイドと和解した場合は野球で再起を目指すチャンスを与えていいと思う」と獲得に理解を示す。
「DeNAがバウアーに再起の道を与えたように、山川も独立リーグで再スタートを切ればいい。信頼を取り戻すまでに何年かかるか分からないけど、被害に遭った女性への行為を心の底から反省して、もう一度プレーしたいなら期限を決めずに独立リーグでプレーする覚悟が必要です。山川は野球で活躍したことで、ちょっと世の中を甘く見ていたところがあると思います。NPBでプレーする選手がいかに恵まれているか、独立リーグで野球と仕事の両立がいかに大変かを体感した方がいい。グラウンド外で何をしてもいいという甘い考えが許されないことを、自覚するでしょう」
同期入団で親交が深かった森友哉が昨オフにオリックスにFA移籍した際、山川は自身のツイッターで、「2軍の練習きつすぎて昼飯も全く食べないで試合したなーー。全身つるまで練習させられて、コーチにもいっぱい怒られて。死んでも見返すって言い続けて9年前に絶対2人で3番4番打つってずっと言い続けてな。森が打つと誰よりも嬉しかったし悔しかったよ!!チーム変わっても一緒仲間よ!!」とエールを送っていた。
攻守の要だった森が抜け、山川への期待が大きかったが自身の愚行で窮地に追い込まれた。主砲を欠いた西武は若手の選手たちを中心に、奮闘している。先行きが見えない現在、何を感じるか――。(今川秀悟)